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境界

冬の神戸の寒く不夜城の誘蛾灯
 詰の甘さを嘆く蹌踉の行く末と

暖簾に呑まれる肩寄せる酩酊と歩き煙草の青年 ここはどこの細道か
 俯瞰で見惚れる無機質な立体と人工島の連なる 居留地からの夜景か

真顔で掛け直す三宮に至る往来
 散文の留守電に重複る車の煩い

さよなら告げて遠く見る長旅の原初に似た風景 ここはどこの細道か
 揺られ揺られて遠ざかる目的と利己主義の投影 素知らぬ顔で白い朝
                       二度と騒がぬ黒い板

仮想青年

雑多の男装が闊歩する
 暗い路地裏に黒馴染む
 胡散臭い砂塵で化粧う
 街は膠着状態だという

そう隣人と似た表情で
 凄む同族嫌悪の右側に
 威光の形が見当らない
 祖は英俊豪傑だという

芥に高説を垂れるより
 人を扇動すれば易いが
 内輪の戯れは心地良く
 見下すは真に心地良く

御機嫌を伺えど裁定は鶴の一声、惰性の空に浮ぶ
 臨界点を超えて飽和した幕切れ、虚勢の宙に屈す
 闇雲に邁進し主観程好く客観の奴隷に成り上るか
 我が名は昼行灯、彼岸へ進む駒、行間なら青天井
 煮ても焼いても食えぬ胚と連れ立つ

足算か引算か各々の思惑が強引に収斂す
 独身の疲労と満身の創痍と生業の彼此と
 掛算と割算の余分な小数で眉唾と皮算用
 喉元過ぎれば熱さを忘れる現実の逃避行
 唐突に掻鳴らす衝動と
 乱暴に鳴り響く激情の  比例と反比例
 相違の心同様各々の思惑で奥底に発散す

肌色

心理的に遠ざかる人の輪郭から白黒になる
 色に塗れた記憶の中で核心ばかり発色する

物悲しい筆先が描く野生の末路
 道徳だけ手懐け涙も流せぬ人々
 顔料の唾を吐き自慰行為を促す

物理的に繰り返す声が透明から立体になる
 欲に塗れた油膜の外で肌色ばかり明滅する

再燃

下水の涙が心を縁取り
 陳腐な科白が溢れ出る
 凡そ馴合う受身は耄碌
 孤独の水辺で匙を投ぐ

自失の果に自己像幻視
 可変の未来が手を招き
 現は猿が自傷のお芝居
 手を叩く人に検査され
 偽薬の海に落とされる

因縁尽く

葡萄酒に眠剤を溶かして
 物憂げに煙草を吹かして
 気付けば太陽に焼かれて
 夢に見ぬよう遠ざけた夢
 飲込むものが増えるたび
 夜半は深みを増していく

道化師は誰かを召し上げ
 詐欺師は誰かを焚き付け
 気付けば太陽に焦がれて
 覚めない夢と事切れた夢
 他人事の報せ増えるたび
 夜半は深みを増していく