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空想

君の美学に残す書置き 黒い車窓に映る形無し
 緩めに閉じて足と詳細 迷わず降りて渋谷方面

広い歩道と狭い歩幅の 番う対比に泳ぐ眼差し
 財布も閉じて物見遊山 流れに乗じて神宮前へ

街宣車と香子蘭の歌に 雑踏混ざり反復する道
 既視感彩る汗と靴擦れ
 迷わず降りて表参道駅 迷わず進む代々木八幡 騒音の傍で茂る樹木に
            立てば芍薬座れば牡丹 百合の寓話に耽る思惑

           水を差しては芽時枯時 違える穂先に粋と仮初
            大義に生きて叢に帰す 等と大映染みた大袈裟

           否、君とは箱庭に落ち 安果物の桑格莉亞飲む
            今も知らぬ茫漠な部屋
            白い理想に向く太子堂 黒い車窓は直ぐ大手町
                       終りを告げる乗換案内
                       北の旅路は間引く街並
                       人もこころも蘖に為り

平等

着る繊細 履く白黒 今日は人の身蜜の味
 脱ぐ体裁 装う鮮麗 明日は我が身仏の顔

不足の刺激物 表面の文句
 薄付きの下地 化粧崩れ手痛い制裁
 不如意の充足 内面の性欲
 肉厚な性行為 普通擬き御理解停滞

類友捲り上等品 着飾り映えて高給取
 或は基で平等に 偽の質素倹約 醜悪

視る贅沢 観る遠近 花は高嶺で風を読み
 診る妄想 看る人生 推して知るべし水油

油断の頸動脈 噛千切れ猛獣
 掌返しの規則 脈略無い自由な形態
 常套句は普段 咀嚼して人類
 意趣返しは反則 悉く度し難い命題

没個性的処分品 箪笥の奥で在庫管理
 或は基で平等に 実に紆余曲折 妖艶

需要

透明感 突き立てて中指 身長体重年齢 詐称して
 朱に交われば赤くなる体 不審な口許に生けて罌粟
 肌感覚 掘り当てて中指 経験知識技術 照査して
 飛車角落ち剣吞な刺客へ 流行の口紅なら今塗って
 素人の取って付けた肩書 玄人の手綱さばきで上書保存しろ

行動策定 先導して親指 令和的世界観 体現して
 圧倒多数で際立つ優位性 世界に一つだけ咲え罌粟
 料金設定 弾いて人差指 昭和的人生観 体感して
 都落ち老年よ大志を抱け 大人を紐付たら即縫って
 薬指の取って付けた白金 小指が圧し折れてる生類憐れめよ

のべつ幕無し苦情と援助 需要に無謀にも啖呵切れ

胸中

つくねんと座す暁の うたかたを萌ゆ趣と
  床に寄り添う曙の  崩れ散り落つ理と
    格子の思い人    移ろう空模様
   今日も雨だろう   明日は晴だろう
    気鬱の今際は    日和見の人の
   羽のない塩蜻蛉   青い背の色深し

「どうか君、言い含めてください、目もくれず立去るものと、目を合わせ語らうものを」

現在

私達は生きている
 発展途上の群生で 不可逆性な気分
 開発途中の密林で 二次性徴な詩集

本能に絡む煩悩を舌の先まで網羅して
 猫も杓子も完熟し半液体状になる芳醇
 交す言葉は過冷却ただ沈黙を愛撫して
 しとどになる旬と惚れた腫れた秋の空

雌雄同体の亡国で 欲に濡れた正常
 慇懃無礼な関係で 右に掛かる比重
 私達は生きていた

典型

悲哀と侮蔑に満ち満ちる治外法権の鹵獲物
 言葉に仕草に擦れ枯らし家畜同士の愛憎劇
 依存の玩具に恋い焦がれ光速開示の性感帯
 野暮な探偵に明け暮れて語るに落る露出癖

現実の役割演技 栄養剤で真人間 兼ては
 厳格な希望と何かを殴る右手若しくは左手
 実際の自己愛性 用法用量と義務 軈ては
 偏執な事実と何かを守る右手若しくは左手

然は然りながら人畜無害な葦で在れと論調
 連なる流言飛語の飛び交う二重基準の群像

労働

正しく排水される時間と石鹸の香り 耳朶の理性を弄る指の必然性
 貫く無垢な舞台と初夜の浴室の相似 淡白と寡黙を司る人の普遍的

奇怪の貯水槽から時代を遡上し洗う 伝染す無言を遮る舌の蓋然性
 虚ろな処女航海と裸体の無性の開く 濃厚と多弁を論う人の無意識